バリアント考察



 ゲームをプレイしていて、こんな感想を持ったことってありませんか?
「確かにおもしろいとは思うんだけど、どこか納得いかないところがある。」
「何度かプレイしているうちに、はじめてプレイした時の魅力が感じられなくなってきた。」 などなど。
 それはいったい何が原因なのでしょうか?そこを分析して、改良する方法を見つけられれば、棚の奥に眠っているゲームが新たな命を持って蘇るかもしれません。

 ボードゲームプレーヤーの間では、数多くのゲームに対し、既に様々な変則ルール、追加ルールなどが考案され、実施されています。それらはバリアント(ルール)という名で呼ばれることが多いようです。
 ひょっとすると、ここで取り上げるゲーム達も、既に十分考察されつくしているのかもしれませんが、それら情報も含めて、意見交換の場となれば、管理人としては非常にうれしく思います。また、中には、本来のルールについて管理人の理解が不完全であるケースもあるかもしれません。ご指摘いただければ幸いです。

 「おもしろくないゲームだと思うんなら、やらなきゃいいじゃん」とか、「不満な要素があっても、それがそのゲームの個性」というような指摘を受けそうですね。それはその通り。ま、肩肘張らず、これもひとつの知的遊戯と解釈していただければと思います。
 さて、それでは、以下に具体的な考察を進めます。


ゲームのフラストレーション要素

(バリアント考案のヒントを得るための若干の考察)

   私個人が上述のような何らかの不満を抱いたケースについて、あえてその原因を分類すると、次のような要素があるのかな、と感じています。

  A:リスクとリターンのアンバランス(ジレンマ不良)
  B:定石化(陳腐化)速度
  C:スリップストリーム症候群(なんか適当な言葉がおもいつかず、変な表現ですが)
  D:逆転可能性の有無
  E:席順依存性

 以下に具体的例を挙げて説明し、改良案があるものについては、示すことにします。(わにのこ考案バリアントは別途一覧にもまとめていこうと思います)

 A.リスクとリターンのアンバランス(ジレンマ不良)
   ゲームをゲームとして成り立たせる重要な要素のひとつが「ジレンマ」の存在です。たとえば麻雀でも、自分があがろうと思えば危険な捨て牌もする必要がありますし、高い手を上がろうと思えばそれだけ手が遅くなり、他者に先を越される可能性が高くなります。このように、ゲームにはジレンマがつきもので、逆に言えばジレンマを楽しむのがゲームとも言えます。
 ただし、ジレンマが楽しめるものであるためには、最低限必要なことがあります。それは自分の行動の選択肢について、リスク(冒すことになる危険/マイナスの結果になる可能性と、そのマイナスの度合い)とリターン(得られる利益/プラスの結果になる可能性と、そのプラスの度合い)が、程よく対応が取れていることです。再び麻雀を例にとれば、やたらと揃えるのが難しい手役があったとして、それを上がった時に得られる点数が非常に低いものであれば、だれもそのような手役を作ろうとはしないでしょう。
 我々がプレイするカード・ボードゲームは、このジレンマの設定が実に見事になされています。ただし、この部分を少し変えれば、もっと微妙なバランスができ上がるのでは、と感じることがあります。
 具体的な例として、ここでは「ベーカーストリート」を取り上げます。
 「ベーカーストリート」は、ホームズとワトソンによる証拠集めがモチーフのゲームです。元々のルールでもなかなか楽しめるゲームなのですが、何度かプレイしてみて、この点は修正した方が面白いのでは、と感じた部分があります。
 このゲームのジレンマの基本は、「手札から大きな数字を出せば、証拠カード獲得の際の合計数字の争いには有利だが、それに至るビッドの段階では不利になる」という点にあります。
 しかしビッドに勝てば、ビッドの際にカードを配置していない(0枚の)証拠カードの山も選択することが出きて、その際はビッドの勝利者が自動的に勝ちとするルールになっています。これだと、ビッドの争いに勝ちさえすれば、証拠カードを得ることは可能ということになります。もっとも、数回プレイしていくうちに、各山に探偵カードは溜まりはじめるので、ジレンマは徐々に力を示し始めそうなものです。
 ところが、我々のプレイの仕方が極端なのか、ファーストビッドから結構きわどいところを狙う傾向にあるため、一回の勝負で溜まる探偵カードが極めて少ないのです。その上、ストップカードがあるため、不利になった山はこのカードで取り合えず危機回避もできるので、ビッドにさえ勝てばという状況は結構長く続きます。
 そこで、探偵カードの無い山の証拠カードは選択できない。ストップカードは無効。というルールとすることで、本来のこのゲームが持つジレンマがうまく発揮されると思うのですが、どうでしょうか?

 B.定石化(陳腐化)速度
   小さな子供の頃、「三目並べ」ってやりましたよね。3×3の井の形の線を描いて、この中に丸とバツを交互に書き込み、自分のマークを3つ並べれば勝ちというやつです。始めのうち面白いと思って始めるのですが、数ゲーム繰り返していくうちに、どうやら両者がベストをつくせば、引き分けにしかならないという事を発見するはずです。これが、定石化(陳腐化)の極端な例です。
  囲碁や将棋のような、打てる手の「場合の数」が天文学的数字になるゲームでは、そう簡単に陳腐化しません。定石といわれるものができるとしても、たとえば序盤の打ち方や、ゲーム中の個々部分的場面でのものであって、ゲーム全般に、こう打つのがベストという結論に至るのは難しいのです。(コンピュータの情報処理能力が上がり続ければ、いつかは「その時」がくるかもしれませんが)
  一方、ドイツゲームの多くは、誰もがある程度の理解をすれば、すぐに取り組むことができるように設定されていますから、囲碁にくらべて陳腐化の速度が速いことは宿命的なわけです。繰り返し遊んでいれば、どうもこの手筋がベストで、これ以外の方向では勝つのは難しい、という認識を全員共有するようになります。(時にはそれは誤解に過ぎないのですが)
  多くのゲームでは予めこの点を考慮し、有利に見える戦略でもそれを複数人が行うと互いに不利益になるようにルールを工夫し、この課題を克服していますし、また運の要素を取り入れる事で、やる度に違う状況が発生するようにもできます。したがって、定石化し始めたと思ったら、この「手筋のバッティングによる不利益」「運の要素」がゲームにあるかどうかチェックし、無いようなら、この要素を取り入れるようなマイナーチェンジを施してみるのはどうでしょう。

 C.スリップストリーム症候群
   ゲームは、基本的には自分が1位になることを目指してプレイするわけですから、ゲーム中突出してリードしたプレイヤーが存在すれば、他メンバーからマークされ、たたかれることになります。このこと自身は当然のことで、否定したらゲームは成り立ちません。そこで、ゲーム中誰がリードしているかがわかりやすく、かつ直接攻撃が容易なゲームでは、中盤でトップをとることはむしろ攻撃対象になることを選択する事なので、最後の最後まで2,3番手につけておいて、最後の瞬間に抜け出すのが得策、と皆が考え、行動するようになりがちです。これはこれで、アクセルの踏み具合とブレーキのかけ具合の妙であって面白いのですが、なんとなくカタルシスが得にくい印象もあります。特に、結局最後のラウンド、最後のターンの「引き」で決まる、とか、最終手番者の行動しだいで決まる、というような事が起こると、「今までのは一体なんだったんじゃぁー」って事になりますよね。
  そうならないための工夫も、既に種々のゲームのルール中に見て取れます。誰がトップかがわかり難くする(例:ドラゴンズ・ゴールドその他のように持ちポイントを衝立で隠すというのが典型です)、いつゲームが終わるかを不確定にする(例:珍獣動物園では4枚目の特殊カードが出たら、ゲームの序盤だろうが中盤だろうが関係なく終了になる)、という方法が考えられます。特に後者のケースでは、2、3番手につけていると、そのまま突然ゲームが終了する可能性があるため、逃げ馬にもそれなりの分があります。
  こうして考えると、逃げることに対するリスク・リターンバランスの修正という側面もありますし、定石化防止のために運の要素の導入を行うという解釈もできます。   

 D:逆転可能性の有無
   序盤出遅れると、とてもさびしくゲームを消化する事になってしまうケースってありますよね。プレイ人口の多い「カタン」でも時々そういう展開に陥ることがあるので、理解していただけるのではと思います。序盤の展開に恵まれなくても、中盤以降逆転の可能性が欲しい。そう考える事は多いと思います。
  ただしこの要素については、下手にルールを改変して、大逆転が可能なものにしてしまうと、かえって興ざめする事になりかねません。出遅れたプレイヤーの立場で考えれば大逆転ルールは望ましいものであったとしても、着々と思い通りの進行をものにしてきたトップ目にとっては、なんとも不条理に感じることでしょう。逆転可能性の付与は諸刃の剣です。
  一片の逆転の望みもないというケースはむしろ少ないはずなので、その望みを捨てずベストを尽くす、あるいは何とか2位を目指してプレイするというのが、まずは妥当な対処法でしょうか。

 E:席順依存性
   ゲームによっては席順が重要。これもボードゲームプレイヤーの共通認識と思ってよいでしょう。ブラフ、コヨーテのように直前のプレイヤーに対してしかコールができないルールでは特に顕著です。プエルトリコのようなやや複雑なルールのゲームでも「あの人の後ろになると勝てない」というケースがあると思います。
 前後の人との戦略の相性という面もありますが、多くの場合、初心者またはそのゲームが苦手な人の後ろは有利で、逆のケースは不利というのが一般的傾向でしょう。初心者に対しては周りのものが適切な助言を与えることで、ゲームを成り立たせることが必要ですね。

 席順というより、ゲームのスタート順の影響が大きい場合で、ポイント制のゲーム(より多くの勝利ポイントやお金など数値パラメータの大小で勝負をつけるゲーム)については、そのプレイ順を決めるための競りをゲーム開始前に行う方法が考えられます。わにのこバリアントのラ・ストラーダの項を参照ください。

 逆転可能性の項目はちょっと消化不良です。まだまだ考察の余地があるかもしれません。ご意見など是非掲示板にお寄せ頂ければ幸いです。


  さて、これらの考察をベースにして(まったくベースにしていないものもありますが)、いくつかのバリアントルールをわにのこバリアントとして、まとめています。

わにのこバリアント一覧